高校生

母親が口癖のように、『高校生の時が1番楽しかった』と言っていた。昔のことを語る母の表情は、どこか誇らしいような、どこか寂しげな。子供ながら、『今は楽しくないの?』と思ったが、口には出さなかった。出してはいけない気がした。そして、母親がそこまで言うもんだから、自分も早く高校生になってみたかった。母親にそこまで言わしめるなんてどんなとこなのだろう。更には、多くの漫画、映画、アニメの主人公が高校生ときた。高校生になったら、屋上でご飯を食べれる、彼女ができる、学校帰りにカラオケに行ける、とにかく青春できると漠然と思っていた。小学校も中学校も、楽しくなかったわけではないけど、さっさと卒業したかった。

 

地元から少し離れた札幌の高校に進学した。通学は往復3時間でそれなりに大変だったが、それでも通って良かったと胸を張って言える。屋上でご飯は食べられなかったけど、高校生としてやりたかったことは粗方経験できた。制服で花火も見にいけたし、学校祭で涙を流すこともできたし、必死に部活をすることもできた。学校帰りにコンビニに寄って肉まんを食べたし、女子のセーラー服は可愛かったし、電車を降りず高校をサボり海に行ったりもした。青春の定義はまだよくわからないけれど、思い出を肴に一晩酒を飲める。

 

高校の卒業式での担任の話の中で、ずっと覚えている言葉がある。

『高校を人生のピークにしないでください。今を人生のピークにしてください。』

大学生になりました。目上の人との関わり方も覚えました。車を運転するようになりました。一人暮らしもそつなくこなせるようになりました。酒も少しは嗜めるようになりました。できることは高校生の時より格段に増えました。でも先生、すみません。自分の人生が高校の時を超えられません。

 

永遠に高校生でいたかったわけではない。大学に行きたくて必死に受験勉強もしたし、高校生当時、日々の日常に楽しさばかりを覚えていたわけでもない。高校に戻りたいかと言われれば、答えはノーだ。今の日々もそれなりに楽しいし充実している。ただ、今の生活の中で高校生の時のように心が震えることがない。何も考えずに、ひたすらバカになって、バカみたいに何かに熱中して、一喜一憂して

高校に、何か忘れ物をした気がする。気がつけば、高校を卒業してもう四年経つ。自分が高校生だった期間より、自分が卒業してからの期間の方が長くなった。母親の言っていた意味がなんとなく理解できるようになった。いい歳して高校のことを引きずってんじゃねえよと言いたい気もするが、自分も似たような状況なのでとんだブーメランだ。

 

多分、幸せな高校生活だったんだと思う。少し未練だったり後悔があった方が想い出は綺麗だと思うし。こうして、卒業してから感傷に浸れるということは、とても恵まれていたんだろう。

でも、これから30、40になっても、『高校の時が1番楽しかった』なんて言ってちゃダサすぎる。だからこそ担任の言葉が刺さる。本当に、良い言葉を、送ってくれやがった。