千と千尋の神隠し

世界は素晴らしい。上手くいかないことだらけで、壁はたくさんあるけれど。理不尽だったり、とてつもない速度の現実にずっと悩まされるけれど。それでも、世界はきっと、素晴らしい。

そう思わせてくれる映画だと、自分は思う。

 

千と千尋の神隠し』を数年ぶりに視聴した。先日、金曜ロードショーでやっていたノーカット版を後輩に録画してもらって、一昨日久々に最後まで見た。まずは夜遅くに、しかもお互い何度も見たであろう映画の鑑賞に付き合ってくれた後輩に、大きな感謝を示したい。夜、暇な時間を共有してくれる人を大事にしたい。

面白い映画だと思う。日本興行収入1位。アカデミー賞長編アニメ部門受賞。面白くないはずがない。けれど不思議な映画だとも思う。物語自体はかなり抽象的で、伏線回収も完璧ではない。必要最低限の出来事のみを描写し、製作段階では緻密に作られたはずの設定事項は映画の中ではほとんど語られない。(親が豚になった理由・坊は誰の子供なのか・どうして千尋は銭婆婆の印鑑を持っても平気だったのか・どうして電車が一方通行なのか)疑問点はいくらでも湧いてくる。けれど、日本人の多くが持っているであろう前提知識・教養・迷信を頼りにそれらの設定を全てぶん投げ、宮崎駿が描きたいシーンのみを展開させていく。ここまでくると潔い。各人の想像によって補填されながら、物語が目くるめく展開されていく。描かれないシーンを想像して楽しむことは、全ての物語に共通するところではあるが、本作品はその比重が圧倒的に多い。だが、そのバランスが絶妙で、物語が破綻する一歩手前でとどまっている。純粋なエンターテイメント性と考察性が最高のバランスで両立している。『君の名は』然り、『エヴァンゲリオン』然り、そこのバランスが取れた作品はヒットしやすいのだろう。

 

宮崎駿監督が、そこまでして何を表現したかったのか。本作の特徴として、全体の9割が千尋視点で進められたことがある。冒頭ずっと屁っ放り腰だった千尋が、新しい世界、新しい人に出会い、沢山の壁を乗り越えて、恋を知り、最後は胸を張って歩いていく。物語の主軸はひたすらに「千尋の成長」からブレない。最終的に、ハクの行方やこれからの家族との関係、現世における時間の経過などスッキリしないこともあるが、全て千尋の成長に担保され、それすらも寧ろ心地良いアクセントになっている。何もかも全てをひっくるめて、世界は素晴らしいと感じさせる。陰鬱な雰囲気の中における1人の少女の成長(+全てを失ったカオナシの再起)を通して、私たちに不思議な肯定感を授けてくれる。庇護の対象であるはずの少女が、1人でしっかりと立っている。これこそが監督が描きたかった姿なのではないだろうか。

 

結局ハクがどうなったかわからない。千尋が大人になって、この出来事を覚えているのかもわからない。きっとこのお話はハッピーエンドではないが、けれどもバットエンドでもない。理不尽で、だからこそ美しい。そして、そんな世界は、きっと素晴らしい。久々な視聴後の感想は、これに尽きる。