石巻

大学生になってから合間を見つけてはドライブや旅行に行った。大学一年生の秋に少し背伸びして車を手に入れ、さらに幸いなことに宿や食事を節約すれば旅行に行けるくらいには貯えの余裕もあった。

尾道、倉敷、函館、稚内、小樽、知床、東北、伊勢、大津… 自分で意図したわけではないのだが、どこも目的地の近くに海や湖があった。海が身近な生活を体験したことがないから、水辺へ憧れがあるのかもしれない。どこも綺麗で行ってよかったと思えるところばかりだった。知床で見た夕焼けはとてもきれいだった。将来海沿いに住むのも悪くないなと思ってしまう。母親に自転車がさびるからやめなさいと言われたが、そんなのは些細な問題である。

 

春休み、石巻に行った。本来の目的地が石巻だったわけではないのだが、東北旅行の計画を立てる中で折しも3月11日に東北にいることになったのだ。気まぐれに、ついでに被災地に行ってみようかと頭に浮かんだ。テレビで、ネットで津波や被災地の様子を見ることはあっても、自分の目で見てみたくなった。不謹慎だが、そこに高尚な目的はなく、ミーハーのような、ある種の観光スポットのように被災地に行こうと決めた。石巻にしたのも、たまたま旅程の中で都合のいい場所にあったからだった。

 

東北はレンタカーを借りて車で回った。石巻市に入ったとき、思いのほか普通の街並みが広がっていて意外に思った。勝手な想像ではあるけれど、もう少し荒れ果てていると予想していた。でもまあ震災から8年たっているのだし、当然のことかも。思いのほか復興しているのではないかと、これまた適当な推測を立てていた。

僕らは石巻にある、大きな看板が飾られてある広場へ向かった。急に街が消えた。更地になった。そして津波で更地になった場所に、ポツンと不釣り合いな大きな大きな看板が立っていた。その隣に、もっと大きな津波の高さを示す標識が立っていた。6.9m。何もない更地で地元の方が近くで花壇の整備をしていた。もともとここには、沢山の家が立ち並んでいたらしい。数年後、ここは大きな公園になるようだ。

 

その足で近くの海へ向かった。大きな、大きな堤防が立っていた。自分が見たほかの海とは違う、異様な雰囲気だった。城壁だった。堤防によって周りから海が見えなくなるほどだった。けれど堤防を越えると、本当に穏やかできれいな海が広がっていた。僕らはバカだった。気が付きゃ堤防を越えて砂浜で遊んでいた。遊ぶしかなかった。快晴で砂浜があって穏やかで、春の寒い海で。

 

来てよかったと思う。ボランティアで来たわけではない。大した金も落としていない。現地の人には何の役にも立っていない。ただの大学生の観光であったが。それでも来てよかったと思う。

 

僕はまた今年の夏も少し遠出をする。今回はお金がないので道内で、釧路へ行く予定だ。精一杯、楽しんで来ようと思う。

 

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